ゴースト

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ゴースト

車の運転手が、筒井(つつい)(まこと)という有名な若手俳優だったということを、詩織は彼の葬式で知った。 「泣いている彼は同じ事務所の先輩で、本当お兄さんみたいだったんだ。あの子は前の映画で共演した女優さんで、間の取り方が絶妙なんだよね。」 式の最中に、誠は終始詩織に話しかけてくる。詩織にしか聞こえないのだから、それも仕方ないけれど、自分の葬式を楽しそうに解説されても反応に困る。 誠はあの事故で死んだのだ。現に今彼の葬式が執り行われている。棺桶には彼の亡骸があるのだ。 「僕は幽霊っていうことだよね。」 誠は事故の直後、自分の死体を眺めながらそう呟いた。詩織は幽霊なんて信じていなかったのだけれど、今自分に話しかけている彼が筒井誠であることは間違いないようだったし、そうだとすれば彼の言うように彼は幽霊だということになる。 "私を恨んでるの?" 詩織は口の動きだけで、誠に話しかける。誠は詩織を避けようとして事故を起こしたのだ。真夜中にスピードを出しすぎていたのは誠の自業自得だとも言えるが、詩織を避けようとしなければ少なくとも彼自身は死ぬことはなかったのだから、やはり逆恨みされてもおかしくはない。 「まさか。」 誠はまた笑顔で言った。幽霊だというのに、さっきからずっと楽しそうだ。 「でも、死んじゃったんだよ。」 詩織は思わず声に出してしまう。誰かに気付かれはしなかったかと、慌てて周りを見るが、皆黙って読経を聞いている。 「まあね。でも仕方ないさ。自分のせいだし。それに、死ぬのも悪くないよ。」 誠は言った。悪くない、のだろうか。今のところ誠の姿が見えるのは詩織だけのようだったし、誠の声が聞こえるのも詩織だけだ。誠は詩織を通してしか世界に関与できない。それが悪くないとは、どうしても詩織には思えない。
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