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読経が終わると、それぞれ順番に焼香をして、そして棺桶に花を手向けていく。詩織も誠の死顔を見つめた。それは紛れもなく彼の顔であり、隣でニコニコしている誠の顔だった。
「安らかに眠ってるみたいだね。」
誠は言った。肉体は抜け殻なのだ。安らかも何もない。その抜け殻に向かって、弔問客が最後の別れをする様は、滑稽にも思えてくる。誠を宿さなくなった肉体は、やがて棺桶とともに焼かれてしまうのだ。
「焼かれて、灰になって、お墓の中に入ったら、成仏出来るの?」
霊柩車を見送りながら、詩織は誠に聞いた。幽霊にずっとつきまとわれては甚だ迷惑である。
「さあ、どうだろう?でも、そう単純ではない気がする。」
誠は言った。それは詩織も同感だ。物事は簡単には進まない。
「でも、せめて火葬場には行った方が良いんじゃない?」
隣を離れようとしない誠に詩織が言った。
「どうして?」
「それはさ、ご家族だって最後の別れだと思ってる訳だし。本人がいなかったら、ナンセンスだと思うけど。」
詩織が言うと、誠は暫く考えて、そして言った。
「葬式なんてそもそもナンセンスだよ。自分の身体が焼かれるのを見るのは気持ちの良いものじゃないだろうし。」
確かにそうかも知れないと、詩織は思った。自分の死体は、きっともはや自分の所有物ではなくて、生きている人の物だ。死を悼み、そして死を明確に日常から切り離しておく為に、人々は死体を眺め、葬る。
「そう、それなら良いけど。でも、どうして化けて出たのか、分からないの?原因が分かれば、対処法も自ずと分かるはず。」
詩織が聞く。原因と結果。正しい世の中には、正しい因果律がきちんと座布団の上に鎮座しているものだ。無論、幽霊が正しい世界に属するものかは分からないのだけれど。
「うん、強いて言えば...」
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