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グラスにの外側に溜まった水滴が指先を濡らす。空調によって店内に循環する空気を指先で感じる。詩織は手の位置をずらして、誠の手に重ねる。しかし彼の手の感触はない。誠は少し哀しそうな顔をする。目下、2人の関係に課題があるとすれば、それはお互いの身体に触れることが出来ないということだ。
「何か良い方法はないのかな?」
誠は言った。
「そう...ねえ。」
詩織はつい声を漏らす。
"誠はゴーストっていう映画観たことある?少し古い映画だけど。"
「もちろん、知ってるよ。デミ・ムーアだよね。ライチャスブラザーズの主題歌も結構好きだし。」
流石は俳優、なのだろうか。誠は映画好きの詩織にも増して、映画に詳しい。
"良かった。その中でさ、幽霊の彼は彼女に接触する為に霊媒師に憑依するでしょ?"
「ちょっと待って。それって、映画の話だよ。」
誠が慌てて言った。そうだ。映画の話だ。しかし、幽霊が存在するなんて、そもそも映画みたいな話ではないかと詩織は思った。
"何か方法がないかって聞くから。'
詩織は言った。
「まあ、そうだけど...。」
誠は俯いて考え込む。詩織はペンを置いて、コーヒーを一口飲んだ。氷が溶けて味が薄くなっている。
誠は苦しそうな顔で視線を動かして詩織を見た。そして、ゆっくりと言う。
「もし取り憑くとしたら、誰が良い?」
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