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青の境界
崖の突端。
白いサマードレス姿の少女が翼のように腕を広げる。
彼女が飛び立つ姿を、私は見ていた。
後ろから、ただ黙って見ていた。
空はどこまでも蒼く。
海はどこまでも碧い。
そして、彼女は白かった。
白く。白く。白く。
純白の彼女は何者にも染まらなかった。
そして。
空と海の青い境目に、消えた。
†
わたしは黙々と石段を登っていた。手には白いユリの花束。苔むした石段はかつてこの丘のてっぺんにあったお宮の跡に通じている。
今はもうお宮はない。わたしがまだ子どもの頃に落雷で燃えてしまったのだ。それを機に山の麓に遷座して、今は小さな祠があるだけ。一応、ここが奥宮ということになってはいるけれど、参拝する人はほとんどいない。
わたしも参拝に来たわけではなかった。ただ、このユリを崖の上から海に投げ込むのが目的だ。
八月三十一日。
それは彼女が旅立った日。
空と海の境目に、彼女が吸い込まれて消えた日。
その日、空は青かった。雲ひとつなかった。
その日、海は蒼かった。鏡のように凪いでいた。
水平線が消えて、空と海が繋がった。
そして彼女は飛んだのだ。
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