3 図書室

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3 図書室

 放課後になると受験生たちが流れ込む。閲覧室にたどり着くため僕も必死だった。 とっくに進路は決まった。  僕は友達が少なく、演劇部に入っていたが先輩からのシゴキで嫌になり読書部に入った。勿論、そんな部活はない。いわゆる、幽霊部員部だ。  最近、寝ても覚めても碧海のことばかり考えている。この前なんて教室でイケないことをする夢を見てしまった。セクシーな紫のランジェリーを着ていた。鞄を置いて本散策の冒険に出た。 『英単語ゲットスルー1900』って本を選んだ。  閲覧室に戻る。  158ページを開いた。  sunny 形容詞 晴れた、日が照っている  classroom 名詞 教室  good-bye 名詞 別れのあいさつ  almost  副詞 1ほとんど 2もう少しで○○するところ  次のページに移る。  mine 代名詞 私のもの  碧海の顔が脳裏に浮かんだ。 『ねぇ?ワタシだけを見ていて?』  almost mine  もう少しで私のもの 「好き」って言えたらどんなに楽だろうか?  碧海はカレシとかいるのかな?  もうキスとかしてるのかな?  トイレに行こうと席を離れた。  碧海が踏み台に座って何やら読んでいた。 「何の本?」  碧海が表紙を見せてくれた。 『グッドバイ 太宰治』  確か、太宰の最後の作品だ。  僕は碧海に薦められ借りることにした。  家に帰って読んだ。夕食も忘れて没頭した。    雑誌「オベリスク」編集長の田島周二は先妻を肺炎で亡くしたあと、埼玉県の友人の家に疎開中に今の細君をものにして結婚した。終戦になり、細君と、先妻との間にできた女児を細君の実家にあずけ、東京で単身暮らしている。実は雑誌の編集は世間への体裁上やっている仕事で、闇商売の手伝いをして、いつもしこたまもうけている。愛人を10人近く養っているという噂もある。  戦後3年を経て、34歳の田島にも気持ちの変化が訪れた。色即是空、酒もつまらぬ。田舎から女房子供を呼び寄せて、闇商売からも足を洗い、雑誌の編集に専念しよう。 しかし、それについて、さしあたっては女たちと上手に別れなければならない。途方に暮れた田島に彼と相合傘の文士が言った。 「すごい美人を、どこからか見つけて来てね、そのひとに事情を話し、お前の女房という形になってもらって、それを連れて、お前のその女たち一人々々を歴訪する。効果てきめん。女たちは、皆だまって引下る。どうだ、やってみないか」
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