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だが乱丸は女の色気に迷っている余裕はない。彼の心には、黒夜叉の発した言葉が突き刺さっていた。
「誰の…… 事だ?」
「あちきがついてるから安心してくだせえよ。いく時は一緒です」
「ごまかすな」
「あいたた! 小突かないでくだせえよ! 旦那って、女をいじめて喜ぶ変態ですか?」
「お、お前な……!」
「そんな怖い顔しなくてもいいじゃありやせんか…… じゃあお名前をお教えしやしょう。その方の名は佐々木小次郎といいやす」
巷の講釈、上演物で聞く名であった。兵法(武術)天下一の名誉をかけて、宮本武蔵と勝負に臨み、敗北して死んだはずではなかったか。
「しかし小次郎殿は生きていらっしゃいやした…… しかも、生きながら魔性に転じた剣客でやす。あちきとしては、旦那が小次郎殿と出会わない事を祈るのみでさあ」
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