第三回 享保の剣鬼

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 そう言って乱丸は黒夜叉の手を引き、立ち去ろうとした。  が、浪人は黒夜叉の手をつかんで離さぬ。 「何をする?」  乱丸の目が殺気を放って細められた。  優しげな美男だけに、乱丸の怒った顔には迫力があった。ましてや彼は人を斬った事もある。凄絶な気迫に浪人達は戸惑った。 「な、なんだ貴様…… やる気か!?」  黒夜叉の手をつかんだ浪人は、なかなかに肚が座っているようだ。一歩も退かぬ気迫で乱丸をにらみ返す。両者の間に殺気が満ち、どちらも退く事を知らぬかのように対峙した時、 「ああ…… あちきの美しさは罪……」  黒夜叉が歯の浮くような戯言を吐いた。 「旦那に一途のあちきでも、他の男に愛を囁かれたら―― 女心が揺れ動く……!」  三文芝居のような黒夜叉の発言に、乱丸も浪人達も目を点にした。 「あちきの思いに旦那が応えてくれぬなら、いっそ他の男に…… ダメよダメダメ、あちきが愛すのは天下にただ一人――」 「……すまん、返す」  乱丸と対峙していた浪人が黒夜叉の手を離した。 「……すまん」  乱丸はなぜか申し訳なさげであった。 「こちらこそ、すまぬ……」 「いや、こちらこそ天下の往来でベタベタしていたのが悪い……」 「ゆ、許せ……」 「こ、こちらこそ許せ……」     
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