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そう言って乱丸は黒夜叉の手を引き、立ち去ろうとした。
が、浪人は黒夜叉の手をつかんで離さぬ。
「何をする?」
乱丸の目が殺気を放って細められた。
優しげな美男だけに、乱丸の怒った顔には迫力があった。ましてや彼は人を斬った事もある。凄絶な気迫に浪人達は戸惑った。
「な、なんだ貴様…… やる気か!?」
黒夜叉の手をつかんだ浪人は、なかなかに肚が座っているようだ。一歩も退かぬ気迫で乱丸をにらみ返す。両者の間に殺気が満ち、どちらも退く事を知らぬかのように対峙した時、
「ああ…… あちきの美しさは罪……」
黒夜叉が歯の浮くような戯言を吐いた。
「旦那に一途のあちきでも、他の男に愛を囁かれたら―― 女心が揺れ動く……!」
三文芝居のような黒夜叉の発言に、乱丸も浪人達も目を点にした。
「あちきの思いに旦那が応えてくれぬなら、いっそ他の男に…… ダメよダメダメ、あちきが愛すのは天下にただ一人――」
「……すまん、返す」
乱丸と対峙していた浪人が黒夜叉の手を離した。
「……すまん」
乱丸はなぜか申し訳なさげであった。
「こちらこそ、すまぬ……」
「いや、こちらこそ天下の往来でベタベタしていたのが悪い……」
「ゆ、許せ……」
「こ、こちらこそ許せ……」
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