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「いやよ、いやよも好きの内……!」
自分の世界に浸りきる黒夜叉を前に、乱丸と浪人は互いに頭を下げている。妙な光景だった。
「あっはっはっ!」
突如、場に響いた笑い声に乱丸達は我に返った。見れば酒屋の軒下に床机を出して酒を飲んでいる一人の男がある。
「三文芝居じゃなあ、愉快、愉快」
男はまだ二十代の半ばほどと見えるが、老練達者で快活な印象を見る者に与えた。
「な、なんだ貴様は!」
浪人は男を見て大声を出した。これは乱丸には理解し難かったが、この男の気配はただ事ではない。それがわかるだけでも、浪人は人生の修羅場をくぐってきたのがわかる。
「いやあ、三文芝居楽しませてもらった。お代をやろう、お主らこっち来いや。酒をおごってやる」
男は尚もおかしげに笑った。色の白い、女のような顔つきの男だ。長い黒髪は束ねて背中に落としている。着流し姿の風来坊のような雰囲気に、何より不思議な事だが、乱丸とどことなく容姿が似ていた。
「ほ、本当か!?」
「うむ、男に二言はない」
男は不敵な笑みを見せ、店の奥に酒を注文した。四人の浪人はたちまち笑みを見せ――無頼漢な彼らには意外な――、酒を飲み始めた。
「め、飯もよいのか!」
「うむうむ、三文芝居のお代だからのう」
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