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防具も着けずに稽古とは危なく思えるかもしれぬが、袋竹刀での打ちあいならば大怪我には及ばぬ。気構えは必要だが、木刀や刃引きの刀に比べれば、はるかに安全であった。
「わし位は越えてほしいな、乱丸よ。おぬしに課した使命が使命だからな」
「は……」
乱丸は立ち上がると越前に頭を提げた。大岡越前自らが稽古をつけるとは、乱丸を気に入っているからだ。
他の者には羨望の眼差しで見られるやもしれぬ。しかし乱丸は気づいた風でもない。
「ご指導ありがとうございました……」
越前に礼をする乱丸。越前はふふんと笑った。
「見事だ乱丸よ。おぬしには辛い命を押しつけたが、やり遂げてみせよ。骨は拾ってやる」
「は」
「魔物相手に怯むな、真に恐ろしいのは、人間であるやもしれぬ」
「は」
「才蔵達の事など気にするでないぞ」
これは越前なりの気遣いであった。御庭番衆たる彼らは、越前お気に入りの乱丸に嫉妬の念を抱いていた。
統率者である才蔵は実際に乱丸と手合わせし、それなりに認めてはいるようだが―― 他の御庭番衆の者、乱丸をどう思っているかわからぬ。
「いくら腕が立とうと、命を懸けて事に臨めぬというならば―― それは無価値である」
越前の声に鋼の意思が宿った。非情とも取れる越前の発言に乱丸は息を飲む。
「腕前に劣ろうと、命を懸けて事に臨むのであれば―― あるいは天をも動かす」
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