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越前の言葉の意味が乱丸には理解し難い。
あるいは越前ですらも理解しておらぬ。
越前もまた数奇な運命に導かれた者であり、彼はその超自然的な何かを――
天の声、意思といったものを乱丸に伝えたかったのだ。
「わしは残酷だ。魔物を斬れとは、おぬしに死ねと言うのと同じ事だ」
「命ある限り、やり遂げまする」
乱丸は伏せていた顔を上げた。恐れも迷いもなかった。
「その心意気、わしには心地よい…… 死ぬなよ、乱丸。土産話を聞きたいからな」
「は」
「ところで…… あの娘は何だ?」
越前は道場の端に目を向けた。そこには黒夜叉が正座して二人の様子を見つめていた。
「旦那あ、かっこいい~」
思わず二人が拍子抜けするような事を口走る黒夜叉。越前は咳払いを一つする。
「今、大事な話だ」
「あちきには乱丸の旦那が大事でやす」
「うむう……」
越前は眉をしかめ、乱丸に向き直った。
「乱丸よ。わしは女は好かぬ」
「は……」
乱丸の声は緊張していた。
「名は?」
「く、黒夜叉と……」
「ふむう…… 黒夜叉とな…… わしは好かぬ…… が、黒夜叉は可愛いではないか!」
越前が間の抜けた高笑いするのを見つめ、乱丸はため息をもらした。
「可愛いだなんて…… そんな~」
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