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黒夜叉は一人、道場の端で照れている。
「なんだ乱丸よ、隅に置けぬな。おぬしの妻であったか」
「い、いいえ……」
乱丸は目を白黒させながら答えた。黒夜叉のおかげで乱丸は心明るくなるが、同時に何かがおかしくなる。
「越前様もかっこいい~」
「……ふ。ふっふっふ」
越前は顔を崩した。
「気に入らぬのが気にいった!」
「え、越前様……」
思わぬ事態に乱丸は顔を白黒させている。黒夜叉を連れてきた覚えはない。彼女はいつの間にか道場の隅に座して、乱丸と越前の稽古の模様を眺めていたのだ。
ちなみに今、彼女は乱丸の長屋に居候している。人外の者である黒夜叉だが、家のない身には乱丸も同情したらしい。
彼女としても乱丸と一つ屋根の下に暮らせるのは嬉しいが、手を出してこないのには不満があるようだ。
「――越前様あ、あちきは陰間茶屋に行ってみたいでやす」
しばし談笑していた黒夜叉は、とんでもない事を言った。陰間とは男娼の事である。つまりは男を買う店だ。女が通うのも珍しくはなかったと当時の文献にはある。
「陰間か、わしも嫌いではない」
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