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越前の発言に乱丸はうつむいたまま咳きこんだ。多忙を極める越前も人の子、そのような人間臭さがあるのはいいのだが、あまりにも意外な展開である。
「うむ、では今度おぬしら二人とも連れていってやるぞ」
「やったあー!」
黒夜叉は手放しで喜んだが、乱丸は脂汗をかいたままうつむいていた。
次の任務――辻斬りのごとき食人鬼を斬れという――への緊張は幾分和らいでいたが。
*****
(今夜が人生の最期かもな)
乱丸はそんな事を思いつつ夜道を行く。遭遇した人食いの化物は逃がしてしまった。今は、建物の屋根ぞいに逃げた化物を追っている。夜闇に乗じて奇襲を受けるやもしれぬ。
(越前殿も俺を気遣っているのか)
越前は昼間、乱丸と黒夜叉に陰間茶屋に連れていってやると豪語していたが――
それは遠回しに乱丸の生還を祈っているのかもしれぬ。
だが、乱丸にとって人生は今この一瞬だ。
あの化物をどうにかせぬ限り、彼に明日はやってこないのだ。
並の人間であれば気が狂うような任務に就ける乱丸は、それだけでも異能者と呼べるのではないか……
尚、黒夜叉は乱丸のお供をすると張り切っていたが、夕食の後すぐに眠ってしまっていた。
「む……」
ふと夜空を見上げた時、乱丸はハッとした。
月は赤い光を帯びて輝いているではないか。
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