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病的なまでに白い肌と、白糸の滝のような長い髪。
一糸まとわぬ蠱惑的な裸体……
赤光を帯びた月明かりに照らされた女は、煩悩郷の夜空へと飛び上がろうとした。
だが、その時だ。
乱丸はいつの間にか立ち上がり、女の背後に迫っていた。
“なんだと”
女が振り返った時には遅かった。
「おあああ!」
叫んで乱丸は踏みこんだ。
そして袈裟がけに斬りこんだ。
白刃が闇に走り、女の体を斬り裂く。
左肩から右脇腹へと斬り裂かれた女の体は、真っ二つになって後方へ倒れた。
乱丸の無心の一手――
いわば無想剣は、妖刀の切れ味と相まって、女の体を一刀両断にしていた。
「……はあ!」
斬りつけた乱丸もまた大地に突っ伏した。全身全霊の一刀を振るった事で、乱丸の心身は力を失っていたのだ。
(や、やったのか……?)
それを確かめたいが、彼には指先動かす力さえ残っていない。 倒れても妖刀を手離さぬのは流石だが、今の彼には余力がなかった。
(まあいい……)
倒れたまま乱丸は微笑した。
やるだけの事はやったという充実があった。
幻魔の光景に耐えた事も、彼の活力を奪っていた。
狂死してもおかしくない光景だったが、意外にも彼を支えたのは仇討ちの記憶であった。
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