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第五回 妖女伝
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二千石の旗本、伊良沢新右衛門の嫡男である源一郎が妻を迎えた。
それだけの話だが、この妻は大層な美女であり、また経歴も不明なのだ。
浪人達に狼藉されそうになっていた女を源一郎が助け、そして一目惚れし――
執念で父母を説得して婚礼に到った。知り合ってから半月という速さだ。
「よろしいのでは」
乱丸は越前の屋敷の庭で、彼の話を聞いている。特に問題はないように思われた。
「若いな乱丸」
越前は盆栽に鋏を入れていた。
「は?」
「若い者には気迫がある。蛮勇がある。目標に向かって一途になる。それも大事だが、物事は真に見極めねばならぬ」
言って越前は苦笑した。奉行としての彼は笑いなど見せぬ男であるが、乱丸を前にすると勝手が違うようだ。
「説教臭くなった。許せ」
「何か問題が?」
「うむ、その妻が普通の女でなければどうする?」
伊良沢家の女中がまず消えた。次に下男が消えた。ある日、ぷっつり姿を見せなくなった。
消えたからといって伊良沢家では騒ぐ事はなかった。新たに人を雇いいれたのみである。
だが新しい女中と下男が再び消えたというのは、如何なる事態であるか。
「……主はどうしたのですか」
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