14人が本棚に入れています
本棚に追加
「嫡男の源一郎が婚礼を挙げて間もなく他界した。奥方もだ」
越前は手を止めて、鋏をどう入れるか考えている。
「では…… 嫡男殿が家督を継いで?」
「うむ、妻を迎えてからは周囲の者が目を見張る働きぶりだそうだ。それは良い事だな」
「……悪い事があると?」
「そうだ、乱丸よ。話は裏を探れ。どのような真実が秘められているのか、それを探るのだ」
越前は乱丸を向いて笑った。
「特に女心はな。おぬし、気をつけねばあの娘に逃げられるぞ」
乱丸の脳裏に黒夜叉の顔が思い浮かんだ。
「お奉行、今はその話なのですか」
「ふふ、なあに、老婆心から心配した…… おぬしの祝言には、わしが仲人を務めてやろう」
「お、お奉行」
「ふむ、おぬしをからかうと面白い。……や、そんな怖い顔をするな。わしが悪かった。さて、伊良沢家の嫁だが、この女は大変な化物ではないかと、わしはにらんでいるのだ」
「なんですと――」
「わしは才蔵に探りを入れるよう命じてある。あやつが帰ってきても来なくても、答えは出るであろう」
越前は鋏の手を止め、乱丸に振り返った。
「わしは残酷と思うか」
「――いいえ」
「死して屍拾う者なし―― わしもおぬしも才蔵もそうだ」
「は……」
最初のコメントを投稿しよう!