第五回 妖女伝

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「嫡男の源一郎が婚礼を挙げて間もなく他界した。奥方もだ」  越前は手を止めて、鋏をどう入れるか考えている。 「では…… 嫡男殿が家督を継いで?」 「うむ、妻を迎えてからは周囲の者が目を見張る働きぶりだそうだ。それは良い事だな」 「……悪い事があると?」 「そうだ、乱丸よ。話は裏を探れ。どのような真実が秘められているのか、それを探るのだ」  越前は乱丸を向いて笑った。 「特に女心はな。おぬし、気をつけねばあの娘に逃げられるぞ」  乱丸の脳裏に黒夜叉の顔が思い浮かんだ。 「お奉行、今はその話なのですか」 「ふふ、なあに、老婆心から心配した…… おぬしの祝言には、わしが仲人を務めてやろう」 「お、お奉行」 「ふむ、おぬしをからかうと面白い。……や、そんな怖い顔をするな。わしが悪かった。さて、伊良沢家の嫁だが、この女は大変な化物ではないかと、わしはにらんでいるのだ」 「なんですと――」 「わしは才蔵に探りを入れるよう命じてある。あやつが帰ってきても来なくても、答えは出るであろう」  越前は鋏の手を止め、乱丸に振り返った。 「わしは残酷と思うか」 「――いいえ」 「死して屍拾う者なし―― わしもおぬしも才蔵もそうだ」 「は……」     
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