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しかし、階下の女が――着物は乱れ、髪もまとめていない――行灯の光の中、人間の腕に食らいついているのに恐怖した。
(うわ!)
女が食らっているのは人間の腕であった。肘の辺りから千切ったのだろう、その腕は成人男性の腕のようである。
がぶり
と女は腕に食らいついて肉を引きちぎり、咀嚼して飲みこむ。口元は真っ赤になっていた。才蔵は美しい食人鬼を見た。
(な、なんという……)
才蔵は魔界の光景に身を震わせた。吐き気がこみ上げてきても、目を離せない。
その時、女が天井を見上げた。才蔵に気づいていたのか、女は鮮血に濡れた唇を歪ませて笑った。行灯の薄明かりの中で、女の両目は深紅の輝きを放っていた。
「うわあああ!」
才蔵は気配を消すのも忘れて、屋根裏から逃げ出した。
(魔物……!)
才蔵は母屋の屋根から庭に飛び降り、夢中で駆け出した。
あれが越前の言う魔物であるのか。
乱丸という若者は、あんな者と戦っているのか。
なまじ美しい女の姿だけに、才蔵には魔物が恐ろしかった。
屋敷の入口の門まで来て、才蔵は足を止めた。門の内側に人影が立っている。その全身からは秘めていてもなお、鋭い殺気が放たれていた。
「あれを見たかい。では逃がすわけにはいかんなあ」
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