第五回 妖女伝

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 しかし、階下の女が――着物は乱れ、髪もまとめていない――行灯の光の中、人間の腕に食らいついているのに恐怖した。 (うわ!)  女が食らっているのは人間の腕であった。肘の辺りから千切ったのだろう、その腕は成人男性の腕のようである。  がぶり  と女は腕に食らいついて肉を引きちぎり、咀嚼して飲みこむ。口元は真っ赤になっていた。才蔵は美しい食人鬼を見た。 (な、なんという……)  才蔵は魔界の光景に身を震わせた。吐き気がこみ上げてきても、目を離せない。  その時、女が天井を見上げた。才蔵に気づいていたのか、女は鮮血に濡れた唇を歪ませて笑った。行灯の薄明かりの中で、女の両目は深紅の輝きを放っていた。 「うわあああ!」  才蔵は気配を消すのも忘れて、屋根裏から逃げ出した。 (魔物……!)  才蔵は母屋の屋根から庭に飛び降り、夢中で駆け出した。  あれが越前の言う魔物であるのか。  乱丸という若者は、あんな者と戦っているのか。  なまじ美しい女の姿だけに、才蔵には魔物が恐ろしかった。  屋敷の入口の門まで来て、才蔵は足を止めた。門の内側に人影が立っている。その全身からは秘めていてもなお、鋭い殺気が放たれていた。 「あれを見たかい。では逃がすわけにはいかんなあ」     
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