第五回 妖女伝

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 男は右手に長太刀を提げていた。刃渡りは三尺以上だろうか。月光に照らされたのは、見目麗しい美青年である。どことなく乱丸に似ていた。 「な、何者!」  叫んで才蔵は懐から十字手裏剣を取り出し、男に投げつけた。夜の闇に放たれた必殺の一手だが男には通用しない。 「――は!」  男は下方から切り上げた一刀で手裏剣を弾き返した。闇の中を飛来する手裏剣を見切ったのか。その眼力といい、今しがたの剣技といい、ただ者ではありえなかった。 「ほう、忍びかい? 天下泰平の時代に、まだ忍者がおったんだなあ…… わしは楽しいぞ」 「き、貴様は……」  才蔵は黒装束の下の全身に汗をかく。人生の終わりを予感したが、生きて越前に報告せねば、という思いがある。  その一念だけが、恐怖の中で彼を支えていた。 「佐々木巌流――」  男は不敵な笑みを浮かべて、才蔵を楽しげに見つめていた。美女のような整った顔立ちに、皮肉そうに歪められた唇の笑み――  それに何より、男の両目は月下に深紅の輝きを放っている。  この男も魔物だというのか。数日前に乱丸と黒夜叉が出会った気さくな男は、生きながら魔性に転じた不死身の剣鬼―― 「小次郎だ」  小次郎は白刃を閃かせ、才蔵に向かって踏みこんだ。 「うわあ!」  才蔵は悲鳴を上げた。夜闇を銀光が切り裂く。     
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