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昼食にそばを食べ、尚も才蔵の説教は続く。一日二食が一般的だが、三食も珍しくはなかった。
「はあ……」
乱丸は目を白黒させながら才蔵の説教を聞いている。そうやって耳を傾けるのは、彼がお人好しであるからに他ならぬ。
「旦那あ、責任取ってくださるんですよね~?」
正座した乱丸の隣には、同じく正座した黒夜叉が猫撫で声を出していた。
「あちき…… 殿方と住んだなんて初めて……!」
黒夜叉は両手を合わせ、祈るように部屋の天井を見上げた。
「ああ、あちきの女心は高ぶる……! 旦那と一緒に住んで、あんな事やこんな事で過ぎる日々…… あちきも遂に嫁ぐ日が……!」
「あんな事やこんな事だと……?」
才蔵は顔を真っ赤にしてうめいた。
「男として責任を取れ!」
「はあ……」
乱丸は曖昧に返事した。事の成行に戸惑ってばかりだ。
人生は十中八九までままならぬものと言うが、彼の身の回りでは奇妙な事ばかり起きている。魔物退治など、その最たるものだ。
「――御免!」
その時、長屋の入口を開いて一人の男が姿を現した。
女のような顔立ちに、長く黒い髪を無造作に後ろで束ねた美男である。着流し姿の彼は乱丸と似通う部分が多く、兄や親類と言われたら信じてしまうだろう。
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