第二回 死霊の恋

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第二回 死霊の恋

   ***  満月の輝く晩だった。  旗本屋敷から抜け出してきた若者が、外で待っていた娘の元へ駆け寄った。 「待ったかい?」  月代を剃り、髷を結った若者は喜びに表情を輝かせている。 「ううん」  町民らしき娘は笑顔で応えた。 「ああ、夜が来るのが待ち遠しかった」  言って若者は娘を抱きしめた。 「私も……」  若者の胸の中で、娘は夢見るようであった。 「今夜も私の家へ……」 「ああ、そうしよう」  微笑ましい仲の二人だが、何かが変だ。  若者はまだ二十歳にもならぬようだが、彼の頬はげっそりと削げ、目の下には隈が浮かんでいる。  対して娘は夜目にも肌が白く、美しい幽鬼のようであった。 「さあ、行こう!」  未来への希望に満ちたかのような、若者の顔。彼の左腕に抱きつき娘も歩き出した。  その二人の後を、着流しの青年が尾行する。長い黒髪を無造作に束ね、腰の帯に朱鞘を差した青年は乱丸であった。 (あの仲むつまじい二人を俺が引き裂くのか)  乱丸の顔には決死の覚悟と共に、ためらいの色があった。  数日前の事である。乱丸は越前に呼ばれ、屋敷を訪れた。 「男と女はなぜに惹かれあうのだろうな」 「は?」     
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