13人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
第二回 死霊の恋
***
満月の輝く晩だった。
旗本屋敷から抜け出してきた若者が、外で待っていた娘の元へ駆け寄った。
「待ったかい?」
月代を剃り、髷を結った若者は喜びに表情を輝かせている。
「ううん」
町民らしき娘は笑顔で応えた。
「ああ、夜が来るのが待ち遠しかった」
言って若者は娘を抱きしめた。
「私も……」
若者の胸の中で、娘は夢見るようであった。
「今夜も私の家へ……」
「ああ、そうしよう」
微笑ましい仲の二人だが、何かが変だ。
若者はまだ二十歳にもならぬようだが、彼の頬はげっそりと削げ、目の下には隈が浮かんでいる。
対して娘は夜目にも肌が白く、美しい幽鬼のようであった。
「さあ、行こう!」
未来への希望に満ちたかのような、若者の顔。彼の左腕に抱きつき娘も歩き出した。
その二人の後を、着流しの青年が尾行する。長い黒髪を無造作に束ね、腰の帯に朱鞘を差した青年は乱丸であった。
(あの仲むつまじい二人を俺が引き裂くのか)
乱丸の顔には決死の覚悟と共に、ためらいの色があった。
数日前の事である。乱丸は越前に呼ばれ、屋敷を訪れた。
「男と女はなぜに惹かれあうのだろうな」
「は?」
最初のコメントを投稿しよう!