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第四回 食人鬼
***
月光に刃が反射して輝く。
乱丸は妖刀を右手に提げて、眼前の敵を見据えた。それは一見すれば狂女のようであるが、その実は魔性に憑かれた人食いの化物であった。
“お前の魂を喰らってやる!”
魔性は月下に吠えた。夜の闇に長い髪が乱れて広がった。魔性の深紅の瞳が乱丸を捉えて離さぬ。
「やってみな」
乱丸はつぶやき歩を詰めた。
一歩また一歩と魔性との間合いを詰める。
乱丸は死を覚悟した男の目をしていた
“ウシャアアアア!”
魔性は両手をまっすぐに伸ばして乱丸に襲いかかってきた。
乱丸は素早く体を右へ回りこませた。
「御免!」
そして一刀を打ちこむ。その一閃は魔性の突き出した両腕を切り落とした。
“ぐえええ!”
両腕を失った魔性を身軽に跳ねた。そして建物の屋根に飛び降りると、一目散に逃げ出した。
「……逃がしたか」
乱丸は懐紙を取り出して妖刀の刃を拭うと鞘に納めた。顔は汗でびっしょりと濡れていた。
(恐ろしい……)
乱丸は夜空を見上げた。何が悲しくて魔性に転じたのか。彼は世間に満ちた暗黒を垣間見るような心地がした。
心が暗黒に染まっているのは、自分だけではないのだ。
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