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「はあ、面倒臭い・・・」
間波奈功典は、ごく普通の人間であった。
あった、という過去形を使ったのは、決して間違いなどではない。
なぜなら、ついさっき、変な頼まれごとをしたからだ。
その話をする前に、この間波奈功典という男のことを簡単に説明しておこう。
ネイビーの無造作ヘアーに、だいたいいつもブイネックのシャツと黒のスキニ―を穿いている。
本人いわく、服なんて数着持っていれば問題ないということだ。
「なんで俺が」
ぶつぶつと先程から文句を言っていると、隣からひょっこりと覗かせた顔が、こう答える。
「功ちゃん功ちゃん、そういう顔しないの。ぽくもいるから。一緒にがんばろ!」
「・・・不安しかねえよ」
「なんで?ぽく、こう見えても鼻は良いんだよ!功ちゃんの何倍もね!だからぽくのこと頼ってもいいんだよ!」
「うるせぇよ、犬っころ」
功典の近くにうろうろしている、茶色のふわふわした髪型の男は、人間に捨てられた犬の妖怪が人の姿として世に留まっているようだ。
ちなみに、ちゃうちゃう犬だ。
文句を言いながらもミソギの髪の毛を触っているところを見ると、ミソギのふわふわとしたその髪の毛は癒しなのだろう。
2人の会話に出てきた曇旺というのは、功典に面倒なことを頼んだ男の名だ。
功典のことを『間波奈功典』とフルネームで呼び、黒の短髪に顎には髭、黒のタートルネックを着ているのだが、どうやら人間という存在ではないらしく、詳しいことは分からない。
タレ目で煙草を吸っていて、大柄な男だ。
ニヒルに笑う曇旺もまた、ミソギの髪の毛を触るのが好きだ。
そして話しを戻して、一体何が面倒なことなのかと言うと、つい先ほど、間波奈功典は工事現場の近くを通りかかり、その時、鉄筋が功典の頭へと向かって落ちてきたのだ。
ミソギが何かを見つけて何かを見つけて走りだしたため、それを追いかけて行った功典は、難を免れた。
免れたのは良いのだが、ミソギを捕まえて大人しくしていろと言っているところへ、1人の人物が現れた。
黒の髪の毛は風に靡き、後ろの方は少し長めで、両耳にはピアスをつけていた。
「?誰だ?」
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