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「そいつらは、お前が死んでも平然と生きてるってわけか」
「いじめられてたって手紙を書いたんだけど、そんな事実はないって言われてた。お母さん、泣いてた・・・」
「お前は何に未練があるんだ?」
「未練・・・?」
いじめられていた子たちに復讐することなのか、いじめ自体を隠した学校なのか、それとも親に何も話さずに死んでしまったことなのか。
朔にどうしてこの世に留まっているのかと聞いたのだが、朔は分からないと答えた。
一体どうして自分がここにまだいるのか、それは朔自身にも分からなかった。
ただこうして、母親が自分の墓に花を供えてくれる姿を見ていると、本当に自分は死んだんだな、と思うようだ。
そんな朔の後姿を見ていた功典の顔に、どこからか吹いてきた風が歩いてくる。
「ちょっと歩くか」
「え?」
「あの、その人は・・・」
「ああ、こいつは犬だ。ミソギってんだ。一応お前と同じで死んでるから安心しろ」
「はあ・・・」
「よろしくねー」
なんとも言えぬ癒し系のそのミソギに、朔は小さく会釈する。
功典に連れられて適当に街を歩いていた。
「幽霊って飯とか食えるのか?」
「いえ、お腹は空きませんし、食べられません」
「まじか。こいつ食ってるし飲んでるぞ。こいつは妖怪だからか?」
「妖怪・・・?」
「ああ。人間に化けてんだよ。妖怪は喰えるのか。幽霊は食えない。へー」
1人で納得しながら歩いていた功典の横で、朔が何かを見つける。
それに気付いた功典が、朔の視線の先を追手みると、そこには先程の女性、つまりは朔の母親がいた。
総菜屋で何かを買っているようで、主人らしき男性と話をしていた。
「奥さん、今日も肉じゃがかい?」
「ええ、そうなの。息子が大好きだったから。肉多め、じゃがいもは丸丸入った肉じゃがなのよ」
「へえ、そうかい。じゃあ、おまけしちゃおうかな」
「すみません、ありがとうございます。きっと息子も喜びます」
母親はその後も八百屋によってオレンジを買い、スーパーに寄ってオレンジジュースを買った。
「肉じゃが好きなのか」
「・・・うん。オレンジも、オレンジジュースも、僕が好きだったもの・・・」
「ぽくもねー、大好きだよ―。けどもっと好きなのはねー」
お前のことは聞いてないと、功典はミソギの口を塞いだ。
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