2/23
60人が本棚に入れています
本棚に追加
/171ページ
凛太朗は、一つ深呼吸をしてから、施錠をするため玄関に向かった。 サムターンを横に倒し、チェーンを掛けた瞬間。 ーーピンポーン。 突然大きく鳴り響いたチャイムの音に、凛太朗は思わず後ろに飛び退った。 「は、はいっ」 およそ探偵には似つかわしくない取り乱しように苦笑しながら、凛太朗は用心深くドアスコープを覗いた。 マンション内の細い通路に、一人の若い女性が立っている。 年の頃は、凛太朗と同じくらいだろうか。大きな瞳が不安そうに微動しながら、せわしなく動き回っている。 美人というより、可愛らしい印象だ。ダークブラウンのセミロングヘアは軽くウエーブがかかり、表情に柔らかさを加えている。 まだ先ほどの動揺を抑え切れていない様子の凛太朗は、ドアスコープの中のその女性に、しばし見惚れていた。全く、探偵にはあるまじき行動の数々。まだまだ修行することが山ほどあるのは、一目瞭然だ。 そのことにようやく気が付いたのか、弾けるようにドアから離れた凛太朗は、ドア越しに「はい」と声を掛けた。 「すみません。私、……ともう……。実は、……が……てしまって、……」 「あ! ちょっと待って!」 ドア越しなので、全く声が聞き取れない。そこでまた凛太朗は、更に大きなミスを重ねることとなった。 なんと凛太朗は、あろうことかサムターンを回し、ご丁寧にチェーンまで外し、大きくドアを開け放ったのだ。 これは、探偵にとって致命傷となり得る重大な過失だ。もし相手が凶悪な犯罪者だったら、どうなる事か。言わずもがなである。 これも男の性なのだろうか。女性に弱いのは、凛太朗も例外ではない。ましてや、この様な可愛らしい女性が瞳を潤ませて不安そうに立っているのを見てしまったら、大概の男性は、彼と同じ行動をとってしまうのではなかろうか。 だがしかし、凛太朗は探偵だ。そこはプロとして、細心の注意を図るべきだった。この場合、まずは一度部屋に戻り、インターホンの画面を確認するのが正解だろう。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!