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「雨、上がりましたね」
「そうですね」
「星が出てますね」
「ほんと。綺麗ですね」
二人は肩を並べて歩いた。傍目には、恋人同士に見えるだろうか?
凛太朗は、ちらりと隣に視線を走らせた。柏原愛の宝石のように輝く瞳が、そこにあった。
この時間がいつまでも続くことを願いながら、凛太朗は、初めての体験に胸を躍らせていた。
「もうここで大丈夫です」
気が付くと、駅に着いていた。
「ここからは、電車で一本ですので」
「そうですか……」
楽しい時間は、あっという間だ。いやしかし、これから幾らでも会えるじゃないか。むしろ、ここからが始まりなのだ。
凛太朗は、明日からの『共同作業』のことを思うと、何だかワクワクしてきた。まるで、遠足前夜の様だ。
「ご自宅はどちらなんですか?」
「大和市です」
「ああ、そうなんですか。お隣ですね」
探偵事務所のある瀬谷駅から大和駅までは、相鉄線で一駅だ。
「近いんですね」
「はい」
しばし沈黙が流れた。
他に聞きたいことは山ほどあったが、いくら何でも、今日会ったばかりの女性に根掘り葉掘り聞くのはさすがに失礼だと思い、凛太朗は「じゃ、気をつけて」と、名残惜しそうに呟いた。
「はい。ありがとうございます。柊さんもお気をつけて」
そう言うと柏原愛は、「それじゃ」と無邪気に笑い、顔の横で右手を振った。
凛太朗も右手を上げ、「それじゃ、明後日一時に」と、彼女にならって手を振った。
柏原愛は一つ頷くと、くるりと向きを変え、柔らかそうなダークブラウンの髪を揺らしながら、駅の構内に消えていった。
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