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「せっかく、あなたの手の中にある大切なものが、なくなってしまうかもしれないって、考えた事、ある?」
「・・・なんの、こと?」
ジャスミンの、匂いがする。
彼女は香水を付けていない。
なら、どこかで花開いているのか。
頭の奧でぼんやりとりとめもないことを考えているのをすぐに感じ取ったのか、可南子は深いため息をついた。
「・・・勝己、今度こそ結婚するみたいよ?」
「・・・は?」
白いもやが、いきなりはぎ取られる。
「年内に・・・は、さすがに無理でしょうけれど、そう遠くない吉日に」
「ちょっと待って、何それ。今度こそって・・・」
「私も、打診されていたのよ、真神のお義父様から」
「いつ」
「付き合って、わりとすぐかしら」
「なに、それ・・・」
「私の母方の一族が東北の歯科医師会を牛耳っているから、お会いする機会がけっこうあったのよね」
網の目のように張り巡らされた政財界に身を置くからこそ、彼女は真神という名をすんなり受け入れていたのだと、今更気が付いた。
「二人で、病院でも開業するか?資金はいくらでも出すぞって言われたわ」
「聞いてない・・・」
「あなたが、聞こうとしなかったからでしょう?」
痛烈な一言だった。
「まあ、勝己に迷いがあるのは解っていたから、のらりくらりとかわしていたしね」
「迷いって・・・」
可南子が年上であることは、真神家で全く問題にされなかったと告げられ混乱する。
「私が、勝己を、好きだったからじゃない?」
「え・・・?」
「私は、好きだったのよ?とても、とても・・・ね」
「・・・とても」
なら、なぜ。
なぜ、別れた。
子供のような繰り言が口からついて出そうになる。
しかし、それを今更聞くべきでないと理性がとめた。
「だから、今度は、見るからに自分のことが一番好な女を選んだみたいね」
「・・・は?」
「彼女と同級生だった従妹から聞いたのだけど、見栄っ張りで、ものすごく勝手で、高慢で、自分が世界一可愛いって思っていて、お金が大好きで、日本が嫌いな女、なんですって」
暴風のように突然押し寄せてくる様々な情報に、頭がついていかない。
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