或る女の話

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『――始めに言っておく。私の心を得ようなどと思わないでくれ』  これが、いつ誰から発せられた台詞かって?  新婚初夜に、夫からですよ。  そうねぇ、ひどい話でしょ。  わたくしも大概、面食らうしかありませんでしたよ。そりゃもう、鳩が豆鉄砲食らったようなというのは、ああいう時に使う言葉だと……え? 自分で自分の顔が見えてたのかって?  いいえ、多分そうだろうなって思っただけですけど。  で、そのあとどうなったのかって? 『そなたとは、完全な政略結婚だ。本来なら私も、ただ一人愛する女性とわざわざ別れて、他の女人と一緒になる謂われはないのだが、病床の父上に涙ながらに世孫(セソン)様を救ってくれ、その為には私がそなたと一緒になるしかないのだ、と言われたら……私とて、甥をかわいいと思わぬ心がないではないし、何より父上の切なる頼みだ。断腸の思いで妻と別れ、婚礼は挙げた。だが、それまでだ。そなたと床を共にするつもりもなければ、仲睦まじい夫婦になる気もない。くれぐれも、期待はしないで欲しい』  って言うだけ言って、あとはゴロンですよ。  え、それで『世孫』が誰かって?  当時の世孫様は、六代目の……いえ、ここだけの話にしておいてくださいね。  この国の六代目の国王殿下だった方なんです。その後、罪人として亡くなった、イ・ホンウィ様のことですけどね。ほら、そなたには叔父上に当たる方ですよ、ミス。恐らく、お会いしたことはないでしょうけれど。  当時の……わたくしたちが婚礼を挙げた当時の殿下は、四代目王の世宗(セジョン)大王様で。  五代目の国王となられた文宗(ムンジョン)殿下は、為政者としての資質はおありだったらしいんですけど、お体の弱い方でね。  即位されてから二年ほどで薨去なされたんです。  で、次に王に立たれたホンウィ様は、まだ十一歳であられて……まあ、その……このあとは本当に大きな声じゃ言えないんですけど、その……そなたも存じておりましょうけれど、次の王様が王位を強引に譲り受けられて。
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