空色羊羹

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(参ったな……。完璧、迷った)  自転車にまたがったまま、(かなえ)は空を見上げて吐息した。見上げる空は青くて目に染みいるほどだった。  6月に梅雨入りして、ひさびさの晴れ間であったが、叶の気分は晴れない。道に迷ってしまったから当然だが、それ以外にも理由はあった。 その細道の両脇は、可南(かなん)の身長の倍以上の高さの竹がカーテンのように連なっていた。中途半端な舗装の、ガタガタ道を器用に石を避けながら走っていると、笹の葉がなびく音に混ざって、はるか頭上から鳥が鳴く声も聞こえた。  半ばやけくそにも似た気持ちでぐんぐん自転車を走らせていると、道の終わりは唐突に訪れた。  自転車のブレーキをあわててかける。急速に止まったタイヤの下で、白い砂利がまいあがった。竹藪の緞帳が途切れた先に、格子扉の数寄屋門が突如現れた。瓦の屋根の下には古めかしい板キレが掲げられていて、「空色天上」と極太の筆で書かれている。 「そらいろ、てんじょう?」 そのまま読んでみた。骨董品か何かを扱うお店だろうか。何にせよ、平凡な女子大生には敷居が高すぎる。自転車から降りて向きを変えようとすると、耳の後ろからぴーぴーと笛のような音がした。 「へ?」  うわっと叫んだ。突如現れた何かが、可南子の髪の毛を引っ張り出したのだ。 「いたっ、いたたたっ、いたいって!」  あわてて両手をふりまわしたせいで、自転車が横倒しになった。それが鳥だと気づいたのはしばらくたってからだった。ゴールデンハムスターみたいにまるまる太ったぶさいくな鳥が可南の耳の横の髪をくわえて、後ろにひっぱっている。 「ちょ、何これ、何で逃げないの……っ」
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