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鳥は可南の腕をかいくぐり、髪の毛ごと数寄屋門へとひっぱりこもうとしている。ハムスターくらいの大きさのくせに力が強くて、思わず足がよろめいた。
「っ、うわ……っ!」
バランスを崩し、自転車の上に倒れかける。あわやと思ったところで。
「────大丈夫、ですか?」
いつのまにか格子の扉が開けられていて、中から出てきた細身で長身の人が可南子の手首を握ってくれていた。大丈夫ですと言うため相手の顔を見た時、可南子は口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
平凡な顔立ちの自分とは比べ物にもならないほど、美しいひとがそこにいた。細身のブルージーンズに鎖骨が見えるほど大きめの、淡いグリーンのセーター、腰より長い髪を横に垂らして一つに結っている。
あまりにきれいなので女性かと思ったが、喉仏や手首、平らな胸や細いが骨格のしっかりした体つきを見て、男だとわかった。
だが彼が男だと言うのであれば、今まで可南子が見てきた男たちは何なのだろう。
……いや違う。
彼が異常なのか。
とにかくこんなきれいな人は漫画やアニメでしか見たことがなかった。二次元の、造り物みたいな美しさだ。まさに次元が違う。その美しいひとの肩の上に、先ほどのぶさいくな鳥が座っている。
「あの、……アズが、迷惑をかけてすみません」
「アズ?」
「ああ、この子です。本当は杏って言うんですけど、落人がアズとか、アズセンとか、省略して呼ぶので」
「アズセン……、なんかお煎餅みたいですね」
真顔で答えると、可南子の言葉に彼は唇をふっとゆるませた。笑ってくれたのだ。それがわかると途端に恥ずかしくなった。何て馬鹿なことを言ったのだろう、自分で自分がいやになる。
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