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「あの、迷惑をかけたお詫びに店でお茶でも、どうですか」
彼が首をちょっと横に傾けると、後ろに広がった髪もサラッと動く。茶色っぽいがもっと色素が薄い、光の加減によっては銀色にさえ見える、きれいな髪だった。
「え? あ、お、お茶?」
まさかナンパ?と驚いだが、その人はすこしの下心もない顔をしている。そりゃそうか、とちょっと恥ずかしくなった。
「お茶屋さんなんです、ここ。今風に言えば、古民家カフェですね。もちろんお代は頂きませんから、どうぞ中に」
「……え、でもそんな」
「遠慮、しないでくださいね」
美しいひとは声も優しかった。包み込むような低音は耳に優しくて、ずっと聞いていたくなる。
「どうぞ、中へ」
こんなきれいな人に微笑まれると、断ることが罪な気さえしてくる。どうしよう。彼に笑顔を向けられるたび金魚になってしまう。長時間一緒にいたら酸欠になってしまうかもしれない。
それでも可南子はその申し出を拒むことができず、彼に起こしてもらった自転車とともに、数寄屋門をくぐって中に入ったのだった。
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