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2.
格子扉の中は、純和風の庭だった。庭の大部分は良く手入れされた芝生だが、真ん中あたりは禅寺で見るような白砂が敷かれていて、小さな池と石橋もある。所々に置かれた庭木の配置も絶妙で、緑が多すぎてくどいこともないし、寂しすぎることもない。
玄関まで続く道は、市松模様みたいな正方形をくみあわせた石畳が敷きつめられていた。その上を、おそるおそる可南子は歩く。美しいひとの肩に寄生した鳥が振りかえり、ふっ、と馬鹿にしたように笑った気がした。
鳥が笑うなんておかしな話ではあるが。
ふと視線を下げた時、彼の指先が青く染まっているのが目に入った。芸大に行った友人が騒ぎそうな、指も長く美しい白い手であるのに、両方の手の指先がインクで染まったように青くなっている。
(もしや染物、かな?)
「どうぞ、こちらですよ」
背後を竹薮に囲まれた、平屋造りの古民家カフェ。焦茶色の趣のある格子戸をあけて中に入ると、上品で爽やかな香りが可南子を包み込んでくれた。扉近くで焚かれていたお香が、彼から漂う香りと同じだと気づき、思わず頬が熱くなる。
「すぐにお茶を持って行きますので、好きな席に座っていてください」
そそくさと彼は厨房と思われる所へ行ってしまった。好きな席、と思いながら店内を見回す。庭園を見渡せるように、窓が開け放たれていた。かなり贅沢に空間を使っているので席数は少ないが、席が離れている分、周りを気にせず、思いきり羽をのばせそうだった。
もう終わりがけだったのか、お客は可南子以外誰もいない。
(お父さんも、好きそうな店だなぁ)
縁側に一番近い席の横で庭を見つめていると、ずきりと心が痛んだ。油断するとこぼれそうになる涙を息を止めてこらえた。
「……そちらでいいですか?」
いつのまにか、背後に彼がお盆を持って立っている。
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