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「あれ? 鷲ちゃん、月初なのに残業しないの?」
十月頭。
他の社員は月初報告の資料作りに追われてる中、私は定時の6時で帰宅準備。
声をかけてきた室岡さんも、データ収集で大変そう。
「……はい、今日は用事がありまして」
彼、信の家に招かれて、食事をすることになっていた。
「あ。鷲塚さん、デート? 同級生の彼氏と?」
荒城さんが振り返って私を見た。
「……うん、まぁ」
その顔がバカにしたように笑っていて、内心、ムッときていた。
信が農業だと聞いているからか、私を見下してるのが見え見え。
「いーなぁ、私も彼氏ほしー!」
大きな声で自分はフリーであることを、奥田さんにアピールしているらしい。
奥田さんは、こちらをチラッと見ただけで再びPCに集中していた。
「お先に失礼します。お疲れ様です」
パチパチと、キーを叩く音が響く事務所を、そっと出た。
……普段から、用事がなくても定時上がりできるくらい、私の仕事は忙しくない。
入社して六年、私はずっとぬるま湯に浸かって仕事しているようなものだ。
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