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″ いおり……″。
今の、声。
先生……?
思わず立ち止まって、声の聞こえた背後を振り返り、通学通勤者達の流れを止めそうになった。
「おっっ……! と」
すると、やはり人と接触。
「……あ!」
肩が当たった。
「ごめんなさっ……」
同時に、バサバサッ!と音が聞こえた。その人は手荷物が多かったようで、ビジネスバッグと一緒に持っていた紙袋をホームの床に落としていた。
「あ、いいっ!大丈夫!」
しゃがみこみ、それを拾おうとした私の手を遮って、己の荷物を拾うその手は、色白でとてもキレイだった。
女の人かと思うほど。
でも、スーツ姿の若い男性だった。
顔は良く見えなかったが、拾いながら口にSuicaのカードをくわえる様は、ちょっと面白い。
「どーもね!」
私に怒りをぶつけるわけでもなく、Suicaを右手に持ち直して、颯爽と改札口に向かうその人からは、ほんのりと深煎り珈琲の匂いがした。
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