florting おだやかに……

6/17
前へ
/504ページ
次へ
″ いおり……″。 今の、声。 先生……? 思わず立ち止まって、声の聞こえた背後を振り返り、通学通勤者達の流れを止めそうになった。 「おっっ……! と」 すると、やはり人と接触。 「……あ!」 肩が当たった。 「ごめんなさっ……」 同時に、バサバサッ!と音が聞こえた。その人は手荷物が多かったようで、ビジネスバッグと一緒に持っていた紙袋をホームの床に落としていた。 「あ、いいっ!大丈夫!」 しゃがみこみ、それを拾おうとした私の手を遮って、己の荷物を拾うその手は、色白でとてもキレイだった。 女の人かと思うほど。 でも、スーツ姿の若い男性だった。 顔は良く見えなかったが、拾いながら口にSuicaのカードをくわえる様は、ちょっと面白い。 「どーもね!」 私に怒りをぶつけるわけでもなく、Suicaを右手に持ち直して、颯爽と改札口に向かうその人からは、ほんのりと深煎り珈琲の匂いがした。
/504ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5629人が本棚に入れています
本棚に追加