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さっき、あやまちを、葉築さんとしてきたのに。
今の私の頭の中は、懐かしい恋の思い出でいっぱいになった。
「元気か?……その服装だと、ちゃんと仕事してるみたいだな、今から出社か?」
橋元先生は、立ち上がって、私の頭から爪先を眺めている。
「元気です。仕事帰りなんです。今から帰るとこで……」
変わらない優しい目を見ていたら、昔のようにその逞しい胸元に顔を埋めたくなった。
「徹夜で仕事か?」
「……あ、いえ。そうではないんですけど……」
……そう思うだけで、二人の間の距離を縮めることはしない。
「まぁ、OL時代で遊べるのも、あと数年だろ。そこそこ楽しめ」
橋元先生は、まるでお父さんのような事を言って、私から視線を反らした。
よそよそしい。
でも、それは仕方のないことだった。
「電車、待つなら軒下に行け。こんな日の当たるベンチじゃ日焼けしちまうぞ」
「はい……」
なぜなら。
私達は、十年前に、先生の奥さんにバレて泥沼の別れを経験したから。
「……先生は、土曜日に仕事ですか?」
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