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「でも、弘にだけは伝えておきたかったんだ」 「なんで?」  改めて僕に向き直り、英雄は僕を見据える。 「俺たち、明日宇宙に行く。月の裏側にある奴らの本拠地へ行って、奴らをぶっ潰しに行ってくる」 「え」  テレビとか、アニメとかそういうフィクションか、別の国の話か。現実にいるのはこの僕だけで、目の前のこの英雄は別次元の存在なのではないか、と感じた。しかし、僕の右手をつかむように握った英雄の手は、確かに同じ現実のものだった。 「弘にウソついたまま、宇宙には行けない」  僕を見据えるその精悍な顔つきも、現実だった。だがその英雄は、僕が今まで知る英雄とは違う。エイリアンとの戦闘で、こうなったのだろうか。 「なんで、僕なんかに」 「だって、俺にとって弘は長い付き合いで気を許せる親友みたいなもんだし、それに…」  英雄はズボンの後ろのポケットをごそごそさせ、赤いものを取り出して僕に見せた。  僕はそれに目を凝らす。 「それは?」  それは、少しボロボロの赤い布で出来た、手のひらに収まる大きさの袋だった。 「これじゃ分からないか」  袋の絞り口を指でこじ開ける。逆さまにすると、口から英雄の手のひらに向けて、青い何かが転がり落ちた。それは、ガラス片のような鉱石のような、青い色をした塊だった。  少しだけ、脳の筋肉が引き締まるような感覚が過った。 「小学生のときに、夜の裏山で俺たちが見つけた石だよ」 「そうだっけ?」 「友情の証だとか二人の秘密だとかクサいこと言って持ってようって決めただろ」 「え、全然覚えてない」 「なんだよ!言った本人が覚えてないって」  大きく笑いながら、英雄は僕から離れるように背もたれに寄りかかる。  言われてみるとそんなこともあった気がするけれど、いまいち思い出せなかった。
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