あの溶けた瞬間の断片に

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あの溶けた瞬間の断片に

「おい、今日は付き合えよ」  熱血教師中野だった。のらりくらりとかわしていたが、さすがにもう無理のようだった。 「絶対に良い勉強になるから。なっ」  そう勢いよく私の肩を叩き、元気いっぱい中野は去って行った。 「はあ~」  大学出て初めて就職した公立高校。ただでさえ私は今までやったこともないバトミントン部の顧問をやらされていた。 「里子に電話しなきゃ」  今日は確実に帰りが遅くなる。溜息と一緒に独り言が漏れた。  日はすっかり沈んでいた。 「夜回りまでやることになるとは・・・」  やることが多すぎて最近頭が痺れていた。社会人としての不自由と不慣れに私は鬱に似た無気力になっていた。  怪しげなネオン煌めく駅前の繁華街を他の先生や父兄と一緒に歩いて行く。普段歩きなれたこの場所も、立場が変わればまた違って見える。  他の先生や父兄の方々が、早速気になった少年少女に声を掛け、次々止まっていく。  そのうちに私はいつしか一人になっていた。はぐれてしまった部分もあったが、私が意図してそうなった意志もあった。  最初からやる気など、全くなかった。適当にお茶を濁して帰ることしか私は考えていなかった。     
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