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「私は待っているのよ。そういう人」
「ほんとよ」
「私は立ち直りたいの」
少女は一語一語区切るように言った。やはりどこか挑発的だった。
「学校には行っているのかい」
「行くわけないでしょ」
少女は何か珍妙な生物でも見るみたいに、その美しい大きな瞳で私を見た。
「話しなら聞くよ・・」
私ははっきりと自覚するほどに、のっけからこの少女に圧倒されていた。この少女と対峙するには心の準備と経験が明らかに足りていなかった。
「男が落ちてきた」
少女は霞むような魅惑的な声で囁くように、それでいてはっきりと言った。
「男?」
「そう、太ったおっさん。百キロ位あったんじゃないかしら。豚みたいだったわ」
少女はたばこをくわえ火を付けた。異様に細く長い見たことのないたばこだった。
「自殺よ。私の目の前に突然降ってきたの。本当に突然よ。私はまだ十五だった。入った高校にやっと慣れ始めた二学期の初めの日曜日だった」
少女はめんどくさそうに、その細く長い煙草の煙を吐いた。その煙はいったん下へゆっくりと落ち、そして再び立ち上るように私の周りに私を包み込むようにまとわりついた。色が見えそうなくらいに濃いお香のような匂いと雰囲気が辺りに漂った。
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