60.最終話

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「こらこら。人を死んだみたいに。 可愛い可愛い後輩のカオルコちゃんは、まだ亡くなってませんよ」 拝んでいる途中、どこからか声が聞こえた。 振り返ると、クンコとあみちゃんがいた。 「もしかして、今の話聞いてたの? ていうか、いつからそこにいたの?」 「2人がキスしてる時から…」 「ウソっ?そんな前から?マジで見てたの?」 「嘘だよ。 あ、やっぱりキスしたんだ。 カマかけたらボロ出してやんの」 そう言って、クンコとあみちゃんは、ヒューヒューと、昔の華原朋美みたいなノリで私と原田くんを囃し立てた。 「ねえ、クンコ…」 私はクンコに、さっき原田くんが言った事の真相を訪ねようとして、やめた。 今の楽しそうに原田くんをからかってる彼女の姿を見てたら、知らないフリをしていてあげる方がいい。 「どうしたの?」 「ううん、なんでもない。 でも、ありがとう」 私は、「ありがとう」という言葉だけ伝えた。 「絶対幸せになってね。 二人の結婚式はあみちゃんとカオルコで、『てんとう虫のサンバ』歌うんだから」 私の「ありがとう」の意味が伝わったのかどうか分からない。 でも、「幸せになってね」と言ってくれている二人の気持ちを尊重し、グジグジ悩むより、二人の気持ちを素直に受け取るべきだと思うし、そうしなきゃならない。 「うん。そうお願いできるよう頑張るから。 あ、もし本当にそうなった時に『てんとう虫のサンバ』歌ってくれるのなら、実はいい衣装があるのよ…」 私がそう言うと、クンコは「副工場長から聞いたから知ってる」と笑った。 そして、なんとあの衣装、工場勤務のあみちゃん達が、副工場長からの指示で、若手工員の自主練習の一環として作ったらしい。 あみちやんも「こんなの誰が着るんだろうって思ってました」と笑った。 私も、みんなの笑顔を見て、つられて笑った。 でも、笑えてると思ってたのは私だけで、周りから見たら、私が泣いてるようにしか見えなかったみたいなんだけど。
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