1.ハナキン

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1.ハナキン

久しぶりに酔った。 これは“ダメ”なやつだ。 プレミアムフライデーだかなんだか知らないけど、花の金曜日。 所謂“ハナキン” 我が社が、発注元のメーカーからら下請け先数社の中から選ばれて贈られる今年度の最優秀下請賞を授与されたお祝いの飲み会。 もちろんその賞は『下請賞』みたいたストレートな名称ではなく、最優秀なんちゃら賞とか、なんとか貢献賞とかそんな名前だったような気がするけど、下請けの私らは、みんなまとめて『下請賞』と呼んでる。 当然、メーカーの人から「ほら『下請賞』やるぞ」と言われたら腹も立つけど、自分らで言う分には腹も立たないし、この方が社外の人に説明するのには手っ取り早い。 それで、我が社が何年振りかの最優秀なんちゃら賞受賞ということと、明日は土曜で休みだということで、ちょっと浮かれて飲みすぎた。 でも途中から私以外はおっさんばっかりになるのが分かってたら、一次会でさっさと帰ればよかった。 自宅のトイレの洋式便座を抱きしめながら、私、森永千里(もりなが ちさと)は、ブツブツ呟いていた。 この時、時間を確認しようとする気力はまだあったらしく、トロンとしたん目で腕時計を見ると、もうすぐ日付が変わる時間だった。 むしろ、日付けが変わる前によく帰ってこれた方だ。 だいたい、あのハゲの大谷部長が、調子に乗ってワインをフルボトルで入れるからこんなことに… そういえば大谷部長はカツラだってみんなにモロバレしてるのに、なんで本人は平気なんだろ?バレてないと思ってんのかな? この前、会社の全体朝礼で、『営業課や経理課などの事務部門の社員も、工場内に入る際は作業服を着るだけじゃなくて、作業用の制帽もちゃんと着用するように』と壇上の大谷部長が訓示したとき、誰かが『帽子 on 帽子』とボソッと呟いたもんだから、まわりの私らは笑いを堪えるのに必死だった。 て、そんなことは今はどうでもよくて、あのハゲ、月曜に会ったら飲まされた仕返しに、『事務室内では帽子は脱いでください』って言ってやるんだ。 もう口から出るものも体内に無くなったはずなのにまだトイレから動けず、私は便座の蓋を閉めると、その上に顔を乗せウトウトし始めた。
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