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 都会の生活は快適だ。  なんでもすぐ手に入る。どこにでも行ける。  一人暮らしも悪くない。家事をやってくれる親がいない不便より、僕のしたいことにいちいち文句を言われない自由が上回った。 ――もっとも、僕にはもう「どうしてもやりたいこと」なんてないのだけれど。  誰も僕を知らない場所が、こんなにも気持ちを楽にしてくれるなんて知らなかった。大学で新しい友達が増えるにしたがって、僕も新しい自分になっていく。  笑って過ごす日々のなかでは、海辺の寂れた町を思い出すこともない。寝る間も惜しんでパソコンのキーボードを叩いていた自分は、もうどこにもいない。  勉強とバイトを口実に帰省しないまま、あっという間に二年が過ぎた。意図的に距離を置いた高校時代の同級生や演劇部の仲間とは、すっかり疎遠になって今では電話どころかLINEすら来ない。  だから、バイト先の先輩からアオの名前を聞いたとき、僕は心の準備がまったく出来ていなくて息が止まりそうになった。 「ここって鈴木の地元だろ? 知らない?」  先輩が差し出して見せたのは、アマチュア演劇祭のフライヤーだった。地方の市民劇団などが集まるイベントのようで、各劇団の写真と紹介文が載っていた。     
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