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そこには、
「二見の浜にてお会いしたく」
と、だけ記されてあった。
「これは小金太が」
「へ、へぇ。夕七つを過ぎて戻らぬ場合、もし郁之助様が訪ねて来られたらお渡しするようにと……」
「なんという事を」
全てを悟った郁之助は、駆け出していた。
糞。なんて真似をしたのだ。小金太が、斯様な手段に出るとは、少し考えれば想定出来たではないのか。
きっと小金太は、仇討ちを告げた日にこうすると決めたに違いない。そんな男だ、あいつは。
「この小金太は、一生涯を賭して郁之助様をお守りします」
小金太の声が、脳内で蘇る。やはり、そうだ。小金太は、あの日の誓いを守ったのだ。
馬鹿野郎。大馬鹿野郎だ。小金太も、それを許した自分も。
二見の浜が見えてきた。血刀を手にした人が倒れている。息を切らした郁之助は、倒れ込むようにして駆け寄った。
その男は、鷹羽左近だった。頭蓋から一刀で両断され、脳漿が漏れ出ていた。
(小金太は勝ったのだ)
しかし、小金太の姿は無い。郁之助は立ち上がって周囲を見渡すと、海に向かって座っている人影を見つけた。
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