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改めて、今座っている席のことを考えた。
今日も前回も、空いていた窓際の席。にも関わらず、久本さんはその窓際の席ではなく、その隣の席に座っていた。考えてみると、空いているなら窓際に座る方が自然のような気がするのに、彼女はそうではなかった。この前も今日も、窓際を空けてその隣に座っている。
まるで、誰かの為に空けているかのように。
「……久本さん」
小さく言葉をかけた。久本さんが顔を上げる。
「はい?」
「もしかして、この席誰か来る予定だった?」
単刀直入に聞いた。久本さんの目がハッと見開かれる。
やっぱり、図星だ。
「オレ、ここに座って悪かったね」
「ち、違います!」
久本さんの声の大きさに、周りの人が迷惑そうに振り向く。久本さんはパッと口を抑えて声のトーンを落とした。
「違います、別に、誰も……」
「さっき、じっとこっち見てた人がいた。同い年ぐらいの男」
「え――」
久本さんは絶句し、慌てたように辺りを見回した。
「もう出て行ったよ」
そう告げると、彼女は明らかに落胆の色を浮かべた。表情がすぐに出る。素直な子なのだ。つい笑みが漏れた。
「今追いかければ間に合うかもしれないよ?」
「え……」
「じゃあ、オレ帰るね」
それだけを言ってオレは席を立った。「木村さん」と困惑気味に引きとめる声が聞こえたけど、それには軽く手だけを振って、そのままその場を離れた。
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