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彼女とあの彼の事情など知る由もないけど、彼女の隣に座るべきがオレじゃないことは確かだ。
それがわかったからといって、落胆もしなかったし、もちろんショックも受けなかった。そういう感情を持つほど、彼女とは親しくもない。好感の持てる子ではあったけど、それだけのことだ。
――さて、予定外に早く図書館を出てしまった。バイトにはまだ時間があるけどやることもないし、今日も早めに向かおうか――そう思って並木道を歩き出した。
が、直後、背後から走る足音が近付いて来たかと思うと「待って下さい!」と呼び止められてしまった。
「木村さん、待って下さい」
そう言ってオレの進路をふさぐように前に周り込んできたのは久本さんだった。慌てたせいなのか、息がやや乱れている。
「あれ。追いかける人違うんじゃないの?」
苦笑交じりに言うと、久本さんはぐっと言葉に詰まったように唇を噛んだ。
「ま、まずは木村さんにちゃんと謝ろうと思って。なんか気を使わせてしまってごめんなさい。……それに……」
俯いた久本さんの声が沈んだ。
「今、彼を追いかける勇気はないから……」
「……」
どうやら、あまり状況の良くない事情がありそうだった。
オレに謝りたいと追い掛けてきた久本さん。でも、本当はそれだけが理由じゃなく、彼女は誰かに話を聞いて欲しいのかもしれない。
「久本さん、顔上げて。オレは別に謝って貰わなくてもいいから。――ちょっとあっちで話す?」
路肩の空いているベンチを指して言うと、久本さんはこくりと頷いた。
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