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「私と彼は、高校に入ってからすぐに付き合い始めました。ずっと一緒にいるのが当たり前のような感じで……当然のように大学も同じところを目指してたんです。でも、先月のことです。彼から急に志望校変えたって言われて。そこは余所の県の遠い大学で……そんなことを急に聞かされて戸惑ってしまって、私彼に『どうしてそんなことを相談もしないで勝手に決めるの?』って言ったんです。それに対して、あいつは……」
久本さんの声が震えた。
「『俺の人生なんだから一人で決めたかった。香月に言えば反対されるって思ったから言わなかった』って。それを聞いて私すごくショックでした」
「……どうショックだったの?」
「私、彼に信頼されてなかったのかなぁって」
自嘲するように久本さんが言った。
「言えば反対されるって思った、なんて、そんなふうに決めつけられて悔しくて……だけど、そう思われても仕方ないのかなとも思いました。私、彼はずっと一緒にいてくれるって思いこんでて……まるで自分のモノのように考えていたから。その時初めてそんな自分に気付きました。だから、私に黙ってた彼の選択は正しかったんだろうなって思います。でもね、気持ちはそう簡単に割り切れなくて。引っ込みがつかなくなって、意固地になって……あいつに酷いこと言ってしまったんです」
「酷いこと?」
問い返すと、久本さんは一度唇を噛んで、消え入りそうな声で言った。
「……勝手にすれば、って。あんたみたいなのと離れるきっかけができてせいせいする、って……そう言いました」
それはまた……ずいぶんなことを言ってしまったものだ。
「それ以来、彼とはまともに顔を合わせていません。どんな顔をして会えばいいのかわからない……」
耐えきれなくなったように、久本さんは両手で顔を覆ってしまった。
オレは大きなため息をついた。さっき彼女が「彼を追い掛ける勇気がない」と言ったのもわかる気がする。
だけどオレには、聞いた話がそれほど深刻なことだとは思えなかった。当事者じゃないからこそだろうけども。
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