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「木村さんって、やっぱり優しいんですね。私なんかの話をこうして聞いて下さった上に、アドバイスまでしてくれて」
「アドバイスと言うほどじゃないけど」
オレは苦笑しながら立ち上がった。
「本当にもったいないと思ってさ。どんなに望んでももう戻れないことだってあるのに……」
「え、それは――」
何かを聞きたそうな久本さんを制するように、オレはもう一度彼女に笑いかけた。
「がんばれよ――カズ」
久本さんが目を丸くする。構わず繰り返した。
「がんばれよ」
久本さんは何かを言いかけるように口を開きかけたけど、ただにこりと笑うだけにとどめ、しっかりと頷きを返してくれた。
オレはそれを見届けると、彼女に背を向けて歩き出した。背後から「ありがとうございました!」と声をかけられ、それに手を上げるだけで応える。すぐに、走り去る足音が聞こえた。今から彼の元へと向かうのだろうか。
歩きながらつい笑みが浮かんだ。
がんばれよ、カズ。
ああ、そういえば……。
同じような言葉を前も言ったっけ。オレは彼女を「カズ」とは呼んではいなかったけれど。
面白いことに、あの時もここではないけど図書館の前だった。
がんばれと言ったオレ。ありがとうと言った「カズ」。
不思議なほどの偶然の一致。
ただ違うのは――。
オレは空を見上げた。
今日も、雲一つない青空だった。
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