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オレが今いるのは、大学のバスケサークルの新歓試合の会場。公園のバスケットコートの中だ。
オレは先週、この3人制バスケサークルに入会した。前々から、当時部長をしていた川崎さんに勧誘されていたのだけど、その時は入会する気はなかった。バスケットは好きだし、興味がなかったわけじゃない。ただ、踏み出す勇気がなかったのだ。
このサークルにはあの人がいたから。
――春山仁。
2学年上の先輩。そして、和音の兄であり、恋人でもあるあの人が。
まともに顔を合わせるのが怖かった。逃げていることは重々承知だったけど、会いたくないものは会いたくないのだ。
会えば嫌でも彼女を思い出す。
思い出せば恋しくなる。
恋しくなって、それでもどうにもならない現実に苦しくなる。
それが嫌だった。
逃げるしかなかった。
だけど、これじゃ、いつまでもオレはこのまま。
ずっと、何も変われない――そう気付いたのは、久本香月との出会いだった。
戻れるのに戻らない彼女にもったいないとオレは言った。迷子になっているだけだと。
だけど、それはオレも同じなんじゃないかと思ったのだ。あの頃に戻れる道はもうないけれど、進める道はあるはずなのに見ようとしない――オレこそ迷子になっていたのだ。
前に進まなければいけないと思った。迷子はもうお終いだ。
そこでまず頭に浮かんだのがこのサークルへの入会。4年生はもうほとんど顔を出さないし、このタイミングで入会というのも微妙な感じではあるけど、オレにとっては大きな決断だった。
少しは前に進めたような気がした。
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