step by step

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 この新歓試合には、普段は顔を出さない4年生も参加している人が多かった。それはあの人も例外ではない。  ストレッチをしているその人の傍から、他の人が離れたのを見計らって、ゆっくりと近付いた。 「――仁さん」  片足を伸ばして座り前屈をしていた仁さんは、体を起こしてゆっくりとオレを見上げた。そして、オレを見ると――何も言わず、ただ微笑んだ。ごく自然な、優し気な微笑みだった。  その瞬間、オレの胸の内に巣食っていたわだかまりがスッと消えた気がした。  やわらかな何かが胸に広がる。それは不思議な感覚だった。  この人で良かった、と思った。  和音が好きになった人が、この人で良かった。  オレは仁さんの隣に座り、同じようにストレッチを始めた。何か話そうと思ったのに、いざとなると何も出て来ない。結局、先に言葉を発したのは仁さんだった。 「おまえが入ったって、川崎がバカみたいに喜んでた」 「あ、さっき抱きつかれました」 「ハハッ! それはご愁傷さまー」  愉快そうに笑い声をあげる仁さんにオレも笑い返した。  意外だった。まさかこんなふうに穏やかな気持ちでこの人と話せるとは思っていなかった。  もっと早く、この人とこんなふうに話せていれば良かった。だけど、こうして穏やかにいられるのは、それだけの時間が経ったからこそなのかもしれない。
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