44人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「元気にしてますか?」
「元気過ぎるぐらい元気だよ。機会があったら、また遊んでやってくれよ」
そんな仁さんの言葉に、オレは苦笑した。
「もうオレのことなんて憶えてないですよ」
仁さんは笑顔のまま小さく首を振った。
「たとえ忘れてるとしても、おまえのことはすぐに思い出すよ。よく懐いてた」
そう言うと、仁さんは「よっ!」と勢いを付けて立ち上がった。
「さあて。そろそろ組み分けするみたいだぜ。あっち行こう」
「あ、はい」
オレも仁さんの後に続く。仁さんはオレよりも少し背は低い。だけど、その背中はオレよりももっとずっと大きく見えた。
その背中に向って、オレは再び声をかけた。
「仁さん」
「ん?」
僅かに顔を向けるだけで仁さんが応える。オレは一度大きく深呼吸をしてから口を開いた。
「和音は――元気ですか?」
仁さんは立ち止り、オレを振り返った。そして、満面の笑顔で答えた。
「元気だよ。その上、最近ますます綺麗になってきた」
そしてまた前を向いて歩き出す。オレは一瞬絶句してしまったけれど。
――なんだか笑いが込み上げてきた。足を速め、仁さんの隣に並んだ。
「今の、のろけですか?」
「あれ、そう聞こえたか?」
オレを横目で見やりニヤリと笑う。オレも負けじとニヤリと笑った。
「オレ……決めた。今日は仁さんを徹底的にマークすることにします。シュート打たせない」
「お。上等!」
バン、とオレの肩を叩き、仁さんが駆け出した。オレもそれに続く。
降り注ぐ春の日差しは、暑いぐらいにあたたかかった。
~おわり~
最初のコメントを投稿しよう!