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銀杏並木の先に見える大きな建物は公立の図書館。
高校生の頃、受験勉強のため足繁く通った。和音と二人で。
そんな感傷を引きずりながら、ゆっくりと歩いて行く。
この日、こんな場所に足を運んだのはどうしてだろうか。何か特別な理由があったわけではなく、気が付けばここに向っていたのだ。
「何やってんだろ、オレ」
並木道を歩きながら、ひっそりと自嘲する。
ここには思い出がありすぎる。あの頃のオレたちのデートと言えば、ここばかりだったから。
そう、初めて和音にキスをしたのもこの場所だった。秋の夕暮れ――綺麗な紅葉の季節だった。
あの瞬間の感覚が鮮やかに甦り、胸がどうしようもなく疼いた。
……バカだ。
なぜ、ここに来たのだろう。余計に泥沼に沈んで行くだけじゃないのか。
来た道を引き返そうかとつい後ろを振り返りそうになり――でも、やめた。
オレは前を向き、再び歩き出した。
思い出から逃げ出すようで、悔しい気がしたのだ。
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