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図書館の中は何も変わってなかった。オレたちが通い詰めていたあの時のままだ。
大学に入ってからは、必要な時は大学の図書館ばかりを利用していたから、ここに来るのは1年以上ぶりだ。懐かしさに思わず頬が緩んだ。
本棚から適当な本を選び、ゆっくりと周囲を見回しながら閲覧席を目指した。
あの頃のオレ達は、座る席は特別に決めてはいなかった。その日その時空いていた席に座った。それでも、やっぱり窓際に座ることが多かったように思う。窓の外を見て、外の様子をひそひそと話すことも多かった。暑そうだとか雨が降りそうだとか、そんな、とりとめのない話。
そんなことを思い出しながら、席を探す。人は少ないが窓際はけっこう埋まっていた。
あ――あった。窓際に一つだけ空いていた席を見つけた。
隣も空席だと思っていたけど、その席には机の上に白いハンカチが置いてあった。忘れものじゃなく、たぶん席取りの為なのだろう。
形だけでも本を読むふりをしようと、本棚から持ってきた本を広げたものの、オレはそれに目を通すことなく窓の外へと目を向けた。ここから見えるのは図書館の裏手にある大きな木。たしか松の木の一種だったと思う。そんな話も和音と交わしたことがある。
しばらくの間、そうやって外を眺めていた。何も考えず、風で木の枝が揺れるのをただ見ているだけ。
ガタ、と音がしてオレは現実に引き戻された。隣の席の人が戻って来たのだ。さり気なくその人物を窺う。イスをひき腰を下ろそうとしていていたのは、制服姿の女の子だった。
「あ……」
つい声が漏れた。その人物はオレのその呟きが聞こえたらしく、オレの方へ目を向けると不思議そうに首を傾げ、一瞬遅れてオレと同じように小さく「あ」と声をあげた。ほんの少しの間、見つめあうような形になる。
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