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「まさか、こんなところで木村さんとお会いできるとは思わなかったです。今日は読書、ですか?」  久本さんはそう言ってオレの手元にチラリと目をやり、またオレの目を見て小首を傾げる。「ファンでした」とか言われて、正直ちょっと引いたけど、彼女の視線には少しも媚びるようなところがなくて、それだけで気が軽くなった。 「ちょっと気分転換。君は勉強?」 「はい、一応受験生なので。週末は部活帰りにここに寄るようにしてるんです」  照れ臭そうに笑い、彼女はちろりと舌を出して続けた。 「うちには小学生の弟がいるから、うるさくて勉強できなくて」  弟、という響きについドキリとしてしまった。和音との会話でよく出てきた単語の一つだからだ。  愛らしい子どもの笑顔が脳裏をよぎった。思わず懐かしむように目を閉じてしまう。 「たくまくん」と呼んで懐いてくれたあの子は元気でいるかな……そんな思いを慌てて振り払った。 「じゃあ、できる時に頑張んなきゃね」  そう言って席を立つ。それに付き合うように久本さんも腰を浮かしかけたけど、オレは手でそれを制して笑って見せた。 「勉強続けて。オレもう出るから」  久本さんは仕方なさそうにイスに座りなおし、顔だけをオレの方へ向けた。
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